上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
涼風がユクモ村へと続く山道を吹き抜け、一面の紅葉を揺らす。
空は高く、鰯雲が流れていた。
新大陸の中心都市であるロックラックの遥か東には広大な山脈が広がっており、
そこでは様々な山の恵みを享受することが出来た。
特にその山々の奥に位置するユクモ村は、豊富な湯量を誇る温泉が湧いており、
風光明媚な景観と相まって、大陸各地から観光や湯治の客がひっきりなしに訪れていた。
しかし、今でこそ豊かな恵みと多数の旅人たちの落とす金で栄えているが、
数年前に一度、村存亡の危機が訪れたことがある。
霊峰と呼ばれる険しい山にしか生息していなかったはずの雷狼竜ジンオウガ、
さらに嵐龍の異名を持つ古龍アマツマガツチまでもが村の近くに姿を現し、
一時は村ごと放棄し、あわや壊滅という事態まで追い込まれた。
しかし、当時ユクモ村を拠点にしていたとあるハンターがそれらの狩猟を成功させ、
大きな脅威の去ったユクモ村は今日の反映を謳歌することができたのだった。
そこへ続くなだらかな斜面を、荷物を満載した荷車が丸鳥ガーグァに牽かれ、ゆっくりと上っていく。
馭者の席には2匹のアイルーが座っており、それぞれ緑色と茶色の毛並みを持っていた。
ガーグァの手綱を引いているのは緑色のアイルーで、その隣で茶色のアイルーが居眠りをしている。
そして荷台には、整然と積まれた荷物に埋もれるように眠りこける小さな人影があった。
荷車はゴトゴトと音を立てて坂を登り、やがて村の入口前で止まった。
「かんぴょう、起きるニャ!」手綱を握っていた緑毛のアイルーは、隣で眠っている茶毛のアイルーを起こす。
「ムニャ~……。ボク、もう食べられないニャ~」
かんぴょうと呼ばれたアイルーは、夢うつつの状態で意味不明な言葉をつぶやく。
「かんぴょう! 寝ぼけてないで起きるニャ!」かんぴょうの襟首をつかみ、ガクガクと大きく揺する緑毛。
「ウニャ!? ……玉露、ボクのサシミウオ盛り合わせはどこに行ったニャ?」
そこでようやくかんぴょうはようやく目を覚ました。
緑毛――玉露と呼ばれたアイルーは呆れ顔でため息をつく。
「かんぴょう……。そんなもん、ここには無いニャ。それよりも、ユクモ村に着いたから、ご主人様を起こしてきて欲しいニャ」
「ニャニャッ! ようやく着いたのニャ? わかったニャ、すぐに起こしてくるニャ!」
言うが早いか、かんぴょうは荷台へと走っていった。
「ご主人さまー、着いたニャー! 起きてニャー!」
かんぴょうは、荷物の山に埋もれるように身を沈めている『ご主人様』の身を揺する。
かんぴょうに揺り起こされ、『ご主人様』はむくりと起きだす。
『ご主人様』は女性だった。
少しクセのある長い黒髪に、白い肌と薄い唇。
細く形の良い眉は意志の強そうな印象を与えていたが、二重のまぶたは寝起きのせいか、
まだ焦点が定まっていない様子だった。
黒を基調とした体のラインがはっきり出る服を着込んでいる姿は、確かに大人の女性のそれであるが、
身長が子供と見まごうほどに小柄なせいもあり、見た目だけで年齢を推し量るのは困難に思われた。
『ご主人様』はしばらく周囲を見回し、最後にかんぴょうをじっと見つめるとただ一言、
「おやすみ」とつぶやき、そのまま寝ようとする。
「ご主人様ー!?」あせるかんぴょう。
かんぴょうの努力の甲斐あって、どうにか『ご主人様』は目を覚ました。
『ご主人様』は荷車から降り、ユクモ村へと続く目の前の長い石段を見上げる。
「おおー、ここがユクモ村かー。……では早速、温泉に入りながらお酒をいただくのだ」
「ご主人様、ボク達は観光に来たわけじゃないニャ」玉露が「ご主人様」にツッコミを入れる。
「わかってるって。……とりあえず、ここの村長さんに挨拶しとくよ」
「行ってらっしゃいニャ、ご主人様~」
「ボク達は荷車でお留守番してるニャ~」
『ご主人様』はアイルーたちに見送られながら、ずんずんと石段を登り始めた。

村に近づくにつれ、硫黄の臭いがかすかに鼻をつく。
見上げてみると、あちらこちらで湯気も上がっている。
「おう、こりゃいい感じでひなびているのだ」
『ご主人様』は期待たっぷりといった表情で石段を登り続ける。
そして石段も終わりにさしかかった頃、岩場から人影が飛び出してきた。
「待て」
その人物は逆光を浴び、腕組みをして『ご主人様』を見下ろすように仁王立ちしていた。
「子供が一人で何の用だ? 親はどうした?」
年齢は20代後半だろうか。
無精髭を生やした角張った顔の男が、『ご主人様』に向かって妙に威圧的な態度で問いかける。
「え? 私?」
子供という言葉で、『ご主人様』は途端に不愉快そうな顔つきになる。
「お前の他に誰がいるというんだ? 大体、子供にそんな露出の多い服を着せるなんて、お前の親は一体何を考えとるんだ」
角張った顔の男は不機嫌そうな『ご主人様』の様子には一向に気づかないのか、勝手に憤慨し始める。
「……そもそも、最近のガキ共はマセ過ぎなんだよ。おいらなんか生まれてこの方、彼女どころか女の子と手を繋いだこともないっての」
「黙れ童貞」
『ご主人様』は苛立ちを隠そうともせず言うと、ぶつぶつと恨み節をつぶやき始めた男の向こう脛を思い切り蹴飛ばした。
急所を蹴られ衝撃と激痛で、男は蛙のつぶれたような悲鳴を上げると、もんどり打って倒れた。
「くっ、何しやがるこのガキ!」
「うっさい、おっさん」
「なっ、おっさんだと!? おいらは、このユクモ村にその人ありと謳われた鬼門番だぞ!」
男――鬼門番は、 無様に地面を転がったまま、蹴られた脛を押さえてわめく。
「鬼門番? 自分で鬼門番とか言っちゃうんだ」鼻で笑う『ご主人様』。
「何笑ってやがる! おいらは、あの『漆黒の覇王』の良きライバルだったんだぞ!」
「へえ、『漆黒の覇王』のねえ……」そこで『ご主人様』の目つきが変わる。
『漆黒の覇王』とは、ユクモ村を拠点に狩猟を行なっていたハンターで、数々の伝説が広く語られている。
しかし現在は村を離れ、別の地域に移住したと言われている。
「そうだ! だから……」
「だったら、アカムトルムを一人で討伐できたりするんでしょ?」
「へ?」
『ご主人様』の一言に、鬼門番は唖然とする。
アカムトルム、またの名を『覇竜』。
翼はないものの、骨格が『轟竜』ティガレックスに酷似していることから、
最も原始的な飛竜種の一種と分類されている。
しかしながらその力は生ける災害とも呼ばれ、その力の強大さ故、
神とも崇められる古龍種にも匹敵すると言われている。
それゆえ覇龍の狩猟は、ハンターズギルドから認定された手練のハンターによる集団狩猟が常識となっていた。
ところが『漆黒の覇王』は常識を覆し、この恐るべき覇龍の狩猟を、たった一人で成し遂げたのである。
「『漆黒の覇王』のライバルを名乗るんなら、それくらいは朝飯前ですよねえ、鬼門番さま?」
『ご主人様』はニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ぐっ、ぬっ……」ぐうの音も出ない様子の鬼門番。
「ふふん、口先だけの人間に私が言い負かされるはず無いじゃん」
勝ち誇った表情で『ご主人様』は胸を反らせる。
「ぐぬぬ……ぬがーっ!」鬼門番は悔しそうに地団駄を踏む。
「何? 言いたいことがあるなら言いなよ」余裕の表情で『ご主人様』は挑発する。
「え……偉そうに言うな! 大体、お前は何者なんだよ!?」
指を差された『ご主人様』は、不敵な笑みを浮かべたまま、言った。
「私の名前はユウ。 『漆黒の覇王』のたっての頼みで、この村に派遣されてきたハンターなのだ」

ひと悶着の後、その正体に口をあんぐり開けたままの鬼門番を尻目に、『ご主人様』ことハンター・ユウは、まずを散策しつつ、この村を治める村長を探す事にした。
どんなハンターでもそうであるが、初めて訪れる街ないし村を拠点にするときには、その集落
――ユウの場合は村――を治める者や、その土地を統括するハンターズ・ギルドの出張所に挨拶をし、
当面のねぐら、狩猟などの準備やその他生活に必要な施設を提供してもらう。
その代わり、ハンターは村長やギルドからの様々な依頼、例えば鉱石やモンスターの卵などの採取、
時には近隣を脅かすモンスターの狩猟などを請負い、様々な恩恵をもたらすのである。
村は、勾配の急な山の斜面を切り開いて作られ、入口付近にある雑貨屋や武器工房などの商業施設、
中ほどにある村人たちの集落、頂上に建造された大きな建物と、ちょうど階段のような造りになっていた。
ユウは、雑貨屋の軒先で村の名物である温泉卵を試食させてもらい、
そのとろけるような滋味に舌鼓を打ったあと、竜人族の老鍛冶師の仕事ぶりを見学しつつ、村長の居場所を聞き出した。
商業施設のある場所からさらに石段を登ると、ちょっとした広場になっており、その周辺に民家が点在していた。
老鍛治師から教えてもらった風体の人物を求め、ユウは広場を見回してみる。
「村長は、と……。あ、いた」
ユウの視線の先、頂上の大きな建物へと続く石段のそばにあるベンチに、探していた人物がいた。
色鮮やかな衣服をまとった、頭の上の大きな髪飾りと殿上眉、竜人族の証である長い耳を持った女性が、
そよ風に揺れる紅葉を見ながら茶をすすっていた。
見た目は妙齢の女性であるが、竜人族の寿命は人間のそれとは比べ物にならないほど長く、
恐らくはユウよりもずっと長く生きているに違いなかった。
ユウが近づくと、向こうも気付いた様子で会釈をする。
「あのー、すみません。ここの村長さんですか?」ユウは竜人族の女性に聞いた。
「ええ、そうです。私はこのユクモ村の村長で、この上にある集会浴場の女将も努めさせていただいておりますすのよ。……ところで、あなたは?」
竜人族――村長に聞かれ、ユウは簡単に自己紹介した。
「まあ、『覇王』さまの……。それはそれは」
ユウが『漆黒の覇王』から紹介されたハンターであることを知った村長は、にっこりと微笑む。
「あの方からのご紹介なら、この村も安泰ですわ。ようこそユクモ村へ」
プロフィール

蒼坂

Author:蒼坂
関西在住の会社員。
時々しがないネット物書き兼2chカラオケ板紅白歌合戦の参加者。

最近のコメント
最近のトラックバック
フリーエリア

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

MHF
Now Loading...

公式イベントスケジュールへ
ブログ内検索
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。